1時間あたり100 gの炭水化物でサイクリストは速くなった――グリコーゲンは関与しなかった
抜粋
ハードなライドから4時間経過後、1時間あたり100 gの炭水化物を補給したサイクリストは、60 gだけ摂取した人に比べてパワーダウンが小さく抑えられた。驚くべきは、両群の筋肉グリコーゲン量がほぼ同等だったことだ。15名の訓練された男性選手を対象にした無作為・二重盲検クロスオーバー試験は、グリコーゲン以外の要因がパフォーマンス向上に寄与した可能性を示唆している。ここでは実験結果と 1 : 0.8 のブドウ糖‑果糖プロトコル、実践への応用方法を解説する。また、誰がこの方法を採用すべきでないか、サンプルが男性のみで規模が小さいことが意味する点も取り上げる。
みんなが思い込んでいること:炭水化物を増やせばグリコーゲンが残る
新たな無作為比較試験は、従来の常識が不完全であることを示した。1時間あたり100 gの炭水化物を摂取したサイクリストは、非常に過酷な4時間ライドの最後で、60 gだけ摂取したグループに比べて確実に速く走れた。しかし、筋肉中のグリコーゲン量はほとんど変化しなかった。
この研究はデンマーク南部大学(University of Southern Denmark)で実施され、Medicine & Science in Sports & Exercise(2026年)に掲載された。高炭水化物補給が単に燃料タンクを満タンにするだけでなく、別の効果をもたらす可能性を示す重要な証拠となった。
研究概要:実際に何をしたのか?
- デザイン:無作為・二重盲検・クロスオーバー
- 参加者:トレーニングされた男性サイクリスト・トライアスリート 15 名
- 事前準備:各試験の24時間前から炭水化物中心の食事を摂取
- ライド内容:個々の15分タイムトライアル平均パワーの60%で、間欠的に高強度インターバルを組み合わせた240分間の長時間サイクリング
- テスト:ライド後に15分タイムトライアル(TT)を実施し、同一選手がフレッシュな状態で行う15分TTと比較
- 比較条件:1時間あたり60 g(CHO60)と100 g(CHO100)の炭水化物を、ブドウ糖‑果糖比 1 : 0.8 のドリンクとジェルで供給
- 測定項目:大腿四頭筋(vastus lateralis)の筋肉生検(ライド前後)、全身炭水化物酸化量、血糖値
クロスオーバー設計により、全員が両条件を経験するため比較がクリーンになる。選手も研究者もどちらの条件かは盲目的に保たれた。
主な結果:4時間後のパフォーマンス低下が抑えられた
研究者は「耐久性」(長時間負荷後のパフォーマンス低下度)を測定した。両条件とも15分TTの出力は低下したが、低下幅は異なった。
- CHO60:‑9.3 %(± 2.0)
- CHO100:‑6.4 %(± 1.7)
- 差:統計的に有意(P = 0.025)
絶対値で見ると、最終TTの平均パワーは CHO100 で 9 W 高かった(P = 0.028)。数値は大きくないものの、長時間レースの終盤ではホイールを保ち続けられるか、抜かされるかを左右する重要な差になる。
予想外の展開:グリコーゲンは説明できなかった
直感的には「炭水化物を多く摂れば筋肉グリコーゲンの消費が抑えられる」と考えるが、筋肉生検はそれを示さなかった。両条件ともグリコーゲンは大幅に減少し、ライド後の残量は統計的に同等だった。
- CHO60:192 ± 99 mmol·kg⁻¹(dry weight)
- CHO100:209 ± 111 mmol·kg⁻¹(dry weight)
- P = 0.56
個人差が大きいため「差が検出できなかった」結果であり、効果が全くないことを証明したわけではない。それでも著者らは「100 g/h は筋肉グリコーゲン利用を変えずに耐久性を改善した」と結論付けている。
変化したもの:全身炭水化物酸化量
高摂取が変えたのは、時間が経過しても炭水化物燃焼をどれだけ維持できたかである。
- CHO60:開始時 2.6 ± 0.6 g·min⁻¹ → 1.9 ± 0.4 g·min⁻¹ へ低下
- CHO100:開始時 2.6 ± 0.4 g·min⁻¹ → 2.3 ± 0.5 g·min⁻¹ へ僅かに低下
- 条件×時間 の相互作用:P = 0.047
血糖はどちらの条件でも安定していた(CHO60 で 5.6〜5.7 mmol·L⁻¹、CHO100 で 6.0〜6.1 mmol·L⁻¹)。したがって、60 g/h 群が低血糖に陥っていたわけではない。100 g/h の優位性は血糖維持以外の何らかの要因に起因すると考えられる。
論文のデータは、余分に摂取した炭水化物が燃料として残り、ライド後半でも炭水化物酸化を支えたことを示唆している。メカニズムは未解明で、脳・腸・他組織が関与する仮説はあくまで推測にすぎない。
あなたへの意味合い
想定される対象者
- 3時間以上の長時間セッションやレースに出場するサイクリスト・トライアスリート。今回のプロトコルは 4 時間のテストで、効果は最終段階で現れた。
- レース終盤の最後の登りやブレイクアウェイ、スプリントフィニッシュが勝負を左右する選手。
- すでに高炭水化物摂取に慣れ、腸トレーニングができている選手。
推奨摂取量
- 1時間あたり 100 g の炭水化物を目標にする(比較対象は 60 g/h)。
- ブドウ糖と果糖を約 1 : 0.8 の比率で摂取する。製品ラベルで比率を確認しよう。多くのスポーツドリンクやジェルはこの配合で作られている。
- 飲料とジェルを組み合わせ、単一ソースに依存せず総量を分散させる。
タイミング
- 研究では 4 時間のライド全体にわたって均等に供給した。大きな一回の摂取より、少量を頻回に摂取した方が効果的である。
- ライド前 24 時間は炭水化物豊富な食事で備える。プレロードを怠らないこと。
腸のトレーニング方法
- 一晩で 60 → 100 g/h に急激に増やすと胃腸トラブルのリスクが高まる。数週間かけて徐々に増やし、レースで使用する製品でリハーサルを行う。
- 100 g/h が無理な場合は、消化しやすい下限の摂取量を守る方が、胃腸不調でパフォーマンスが低下するよりはマシである。
今すぐやめた方が良い人
- 2〜3 時間未満の短時間セッションを行う選手。今回の研究は短時間では検証されていない。
- 高炭水化物摂取で慢性的に胃腸障害を抱える人は、まずは専門家に相談すること。
- 炭水化物代謝に影響を与える既往症がある人は、医師または管理栄養士と相談の上で実施すること。
留意点
デザインはしっかりしているが、サンプルは 15 名の男性だけである。結果を女性、シニア、レクリエーション向けライダー、他のスポーツへ直接当てはめることはできない。比較は 60 g/h 対 100 g/h のみで、80 g/h がどこまで効果を示すかは未検証である。さらに、筋肉グリコーゲンデータは個人差が大きく、"差がなかった"という結論の解釈には限界がある。
それでも、60 g/h を上限と考えている選手にとっては重要な示唆がある。燃料は単に筋肉グリコーゲンの残量だけで測れない効果をもたらす可能性がある。3 時間超のレースで腸が慣れているなら、ブドウ糖‑果糖比 1 : 0.8 で 100 g/h をトレーニングに取り入れてみる価値は十分にある。