概要:筋肉サプリが心肺指標を伸ばした
ベータヒドロキシベータメチルブチレート(HMB)は、長年「筋肉量維持」や「筋力向上」を目的としたサプリメントとして販売されてきました。2026年に Journal of the International Society of Sports Nutrition に掲載されたランダム化・三重盲検・プラセボ対照試験(Durkalec‑Michalski ら)では、むしろ有酸素面での効果が注目されています。除脂肪体重に応じた高用量の液体HMBを摂取しながら高強度機能トレーニング(HIFT)を行った男性は、プラセボ群に比べて複数の心肺指標が改善しました。一方、下肢等尺性筋力には有意な変化は認められませんでした。
研究の実施方法
参加者
- 総人数:90名の男性
- トレーニング経験者:53名(平均年齢 29歳、除脂肪体重 71 kg)
- 未経験者:37名(平均年齢 32歳、除脂肪体重 68 kg)
介入スケジュール
| ブロック | 内容 |
|---|---|
| ブロック1(SUP) | 経験者は通常トレーニングに加えて HMB またはプラセボを摂取。未経験者は日常生活に加えて同様に摂取。 |
| ブロック2(SUP + EX) | 上記サプリに加えて、週2回の HIFT セッションを実施。 |
投与量
液体 HMB フリー酸を 除脂肪体重 1 kg 当たり 90 mg(1日) の量で投与。例:除脂肪体重 70 kg の場合は約 6.3 g/日。
評価指標
- 心肺機能:漸増サイクリングテストで VO₂max、乳酸無酸素閾値(AT)、呼吸性補償点(RCP)を測定。
- 筋力:下肢の最大随意等尺性収縮(MVIC)で等尺性筋力を評価。
有意な改善が認められた指標(トレーニング経験者)
- VO₂max(p = 0.024)
- AT までの時間、AT 時の VO₂、AT 時の出力、AT 時の心拍数
- RCP までの時間、RCP 時の VO₂、RCP 時の出力
ほとんどの閾値関連指標で p 値は 0.001 未満と非常に有意でした。VO₂max の差は最小でしたが、閾値指標の改善が顕著であることから、HMB の主たる効果は「持続可能な高強度作業量の拡大」と言えるでしょう。
改善が見られなかった点
下肢等尺性筋力(MVIC)には有意差が認められませんでした。したがって、HMB を筋力向上目的で使用した場合、本試験はその効果を裏付けていません。HMB の筋力への影響は過去の研究でも賛否が分かれており、マーケティング上の主張と実際の効果が一致しない典型例です。
未経験者の結果
未経験者で有意に改善したのは次の2項目です。
- RCP までの時間(p = 0.001)
- RCP 時の出力(p = 0.002)
著者らは、週2回の HIFT だけでは刺激が不十分で、より長期間・高頻度の介入が必要だと指摘しています。要するに、既にトレーニング刺激が存在する場合にサプリが適応を増幅しやすい、と解釈できます。
投与量の算出方法
従来の HMB 研究では 1日 3 g が標準的でしたが、本試験では除脂肪体重に応じてスケールしています。
投与量(g/日) = 0.09 × 除脂肪体重(kg)
- 除脂肪体重 60 kg → 約 5.4 g/日
- 除脂肪体重 70 kg → 約 6.3 g/日
- 除脂肪体重 80 kg → 約 7.2 g/日
平均的なトレーニング参加者(除脂肪体重約71 kg)は 約 6.4 g/日 を摂取しており、従来の 3 g プロトコルの約2倍です。論文本文では摂取タイミングの分割方法は明記されていません。また、除脂肪体重の測定誤差(体組成計やキャリパーによる)により、実際の投与量は数百ミリグラム前後変動する可能性があります。
推奨される対象者
- ハイブリッドアスリート(例:CrossFit 競技者、タクティカルアスリート、コンディショニング中心のウエイトリフティング選手)
- 高頻度かつ高強度のトレーニングを日常的に行っている人
これらの層は、閾値パワーや閾値到達時間の向上が実戦で直接的に有利に働きます。一方、純粋に最大筋力を追求するアスリートや、トレーニング量が十分でない初心者には、直接的な利益は期待できません。初心者はまず安定したトレーニング量を確保することが先決です。
留意すべき点
- 介入期間が短い:各ブロックはわずか 3 週間で、効果の持続性は不明です。
- 対象は男性のみ:女性への適用についてはデータがありません。
- 高用量の長期安全性が未検証:従来の 3 g 用量の長期データは豊富ですが、本試験で使用された約 2 倍の量に関する長期安全性はまだ確認されていません。
- 多数のアウトカム:エンドポイントが多数あるため、p 値が小さい指標に重点を置く必要があります。VO₂max のみで結論づけるのは危険です。
- 単一試験の結果:良くコントロールされた 1 つの研究はシグナルであり、最終的なエビデンスではありません。再現研究が求められます。
結論
本研究は HMB を「有酸素サポート」向けサプリとして再定義しています。すでにハードなトレーニングを行っている人が、除脂肪体重に合わせた投与量と実測可能な閾値テスト(例:漸増サイクリングテスト)を組み合わせれば、効果を比較的容易に検証できます。バーベル上の重量増加を期待するのではなく、有望な方向性 として捉え、長期・大規模な研究が蓄積されるまでは「証明済み」ではないことを認識しておきましょう。