ケトンIQはケープエピックで血中ケトン体を上げたが、その他に効果はなかった
研究で何をテストしたか
Engelbrecht らは、2025 年に開催された Absa Cape Epic(8 日間のマルチステージ・マウンテンバイクレース)に出場した 18 名のトレーニング済みマウンテンバイカー(10 チーム)を対象に調査を行った。選手は無作為に、R‑1,3‑ブタンジオール(BDO)を有効成分とする Ketone IQ 87.5 mL、または同量のプラセボを摂取させ、ステージごとに 1 回、睡眠前に 1 回、計 2 回飲ませた。
研究チームは実際のレース環境下で以下の指標を幅広く測定した。
- 運動中・安静時の心拍数
- エネルギー・炭水化物摂取量
- 水分補給量
- 睡眠指標
- 反応時間を含む認知パフォーマンス
- 主観的ストレスと回復感
ほとんどのケトン研究はラボでの厳密な統制下で行われるが、本調査は「疲労、睡眠負債、給餌プレッシャーが1 週間のレースで積み重なる」状況下で BDO が効果を示すかどうかを検証した点が特徴である。
目を引く結果:ケトン体は上がったが効果はなし
飲料は血液化学上の期待通りに働いた。BDO の摂取により、ステージ 1 以降、血中 β‑ヒドロキシ酪酸(BHB)は約 1.0 mM に達し、軽度のケトーシスが確認された。
しかし、期待されたパフォーマンス向上はみられなかった。レース全体を通して 両群とも 同様の疲労蓄積サインが観測された。
- 運動時の心拍数低下はほぼ同等
- 安静時心拍数の上昇も同程度
- エネルギー・炭水化物摂取量は増加傾向が同様
- ステージ 6 での反応時間遅延はプラセボと差がなかった
BDO はプラセボと比較して上記指標に有意な変化を与えなかった。論文は「運動後の BDO は疲労や回復指標を改善しなかった」と結論付けている。
ブタンジオールはケトンエステルとは別物
ここが購入者が最も見落としがちな点だ。「ケトンサプリ」は実は複数のカテゴリに分かれる。
- ケトンモノエステル(KME) は体内で直接 BHB に変換され、エンドランス運動中の回復促進や生理的ストレス低減が報告されている。
- R‑1,3‑ブタンジオール(BDO) はケトンの前駆体であり、体内で代謝されて BHB になるまでに時間がかかる。そのため血中ケトン濃度はエステル系に比べ低くなりやすく、本研究で観測された約 1 mM は典型的な例と言える。
著者は「製剤ごとに個別の評価が必要」だと強調している。すなわち、BDO の無効結果がケトンエステル全体の失敗を意味するわけでも、エステルで得られたポジティブな結果が BDO の有効性を証明するわけでもない。製品ごとにエビデンスを分けて評価すべきである。
購入を検討している人への示唆
この研究はケトンが全く無意味だと言っているわけではないが、Ketone IQ がマルチデイのエンデュランスレースにおける回復の近道になるという考え を揺るがす結果である。
- 投与量・タイミング:1 回 87.5 mL を 1 日 2 回(運動後と睡眠前)摂取。このプロトコルでは回復指標に変化が見られなかった。摂取量を増やす、別のタイミングで摂取する、といった条件は本研究では検証されていない。
- 向かない可能性が高い人:ステージレースでの回復・睡眠・翌日のコンディション向上を主目的とする選手にとって、本試験は有益なエビデンスを提供しない。
- 費用対効果の観点:両群ともレースが進むにつれて炭水化物とエネルギー摂取量が増えていた。給餌、睡眠、ハイドレーションといった実証済みの要素を最適化した上で、サプリメントに資金を投じるか検討すべきである。
- 成分チェック:購入時には製品が BDO かケトンエステルかを必ず確認し、両者の研究結果を混同しないこと。
留意すべき限界点
本調査はサンプルが小規模であるため、結果の解釈には注意が必要だ。
- サンプルサイズ:18 名という規模は統計的に小さく、微弱な効果を見逃す可能性がある。「差が検出されなかった」ことは「効果が全くない」と同義ではない。
- チーム単位での競走:10 チームという実戦的変数(ペース配分、地形、ステージごとの要求)が入り、ラボ実験のような統制が失われている。
- 単一製品・単一投与・単一スケジュール:本結果はこの BDO 製品、指定投与量、運動後プロトコルに限って適用できる。運動前使用や別フォーミュラについては何も語れない。
- 軽度のケトーシス:血中 BHB が約 1.0 mM にとどまった。より高濃度で効果が変わるかは未検証である。
一方、デザイン自体は強みでもある。8 日間の実レースで二重盲検・プラセボ対照を実施できたことは稀であり、サプリメントマーケティングがしばしば欠く「エコロジカルに妥当な」証拠と言えるだろう。
結論
Ketone IQ はケープエピックの選手の血中ケトン体を上げたが、プラセボと比較して疲労蓄積の軽減、反応時間の保護、回復促進といった効果は示さなかった。プレミアムケトンドリンクの購入を検討する持久系アスリートは、BDO が回復目的で有効であるというエビデンスは現段階では乏しいと判断すべきだ。今後は、規模の大きい研究やケトンエステルとの直接比較が行われることで、より明確な結論が得られることが期待される。
出典: Engelbrecht et al., "Post‑Exercise R‑1,3‑Butanediol did not Improve Markers of Fatigue or Recovery During a Multi‑Stage Mountain Bike Race," European Journal of Sport Science (2026). DOI: https://doi.org/10.1002/ejsc.70260. PMID: 42852530