炭酸水素ナトリウムジェルを途中で摂取、3時間サイクリング後の12分TTで12 W増加
背景
ハードな努力の前にベーキングソーダ系のバッファー(炭酸水素ナトリウム)を摂取できることは広く知られていますが、長時間のライド中に摂取した場合の効果を調べた研究はほとんどありません。そこで、訓練されたサイクリストを対象に行われたヒトクロスオーバー試験が、興味深い結果を示しました:3時間のサイクリング後の12分タイムトライアルで+12 Wという効果です。スプリントや2分TTでは変化が見られず、サンプル数はごく少数でした。
本研究の意義
- 炭酸水素ナトリウム(以下、BICARB)は、1〜60分間の高強度運動に対して有効性が報告されていますが、従来は事前摂取に焦点が当てられてきました。
- 本研究は、運動中に BICARB を摂取し、長時間の運動で生じるパワー低下(いわゆる“耐久性”)を抑制できるかを初めて検証したものです。
- 結果は Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports(Norte et al., 2026)に掲載され、炭酸水素ナトリウムと炭水化物を組み合わせたジェル形態の効果が示されました。
実験デザイン
- ベースライン測定:非疲労状態でのパワープロファイル(6秒スプリント×3、2分TT、12分TT)を取得。
- 2つの試験条件(クロスオーバー設計)
- CHO:炭水化物のみ(80 g/h)
- CHO + BI:炭水化物(80 g/h)+炭酸水素ナトリウム 18 g と炭酸水素カリウム 2 g を混合したジェル
- サイクル:95% ガス交換閾値(VT)での3時間サイクリングを実施。
- テスト:ライド終了後、ベースラインと同様のパワープロファイルを再度測定し、疲労状態でのパフォーマンスを評価。
主な結果
- 12分タイムトライアル:CHO + BI で 12 W 高出力(p = 0.01、Hedges' g = 1.07)。効果量が大きく、唯一統計的に有意な改善です。
- その他の指標:
- 6秒スプリント:+12 W(p = 1.00、g = 0.18)
- 2分TT:+6 W(p = 0.888、g = 0.32) いずれも効果量が小さく、実用的な利益とは言えませんでした。
- 胃腸症状:条件間で有意差はなく、特に不快感は報告されませんでした。炭水化物ジェルに少量ずつ混合したことが容認性向上に寄与したと考えられます。
実践的な考察
- 使用した用量:3時間のライドで炭酸水素ナトリウム 18 g、炭酸水素カリウム 2 g、炭水化物 80 g/h をジェルとして摂取。時間で割ると約 6 g/h の BICARB(≒5 g のナトリウム)に相当します。
- 摂取タイミング:レース前の「ボリューム」摂取ではなく、運動中の給餌計画の一部として均等に与えることが推奨されます(本研究では3時間を通して均等に投与したと想定)。
- 適応しやすい選手像:
- 高炭水化物率で給餌している訓練サイクリスト、トライアスリート、ロングコース選手
- レース終盤に10〜15分の持続的ハードセグメントがある人
- まずはトレーニングで十分にテストできる人
- 注意すべき対象:
- ナトリウム制限が必要、または血圧・腎臓・心臓に問題がある人は必ず医師に相談
- 過去に胃腸トラブルがあり、BICARB プロトコルを未経験の人
- スプリントや短時間イベントを主に対象とする選手(本研究では有意な効果が見られません)
- 魔法のような効果を期待する人:本試験はサンプルが小さい単一研究です。
限界点
- サンプルサイズ:11名の訓練サイクリストのみ。女性や異なるレベルの選手への再現が必要です。
- 効果の限定性:有意だったのは12分TTのみで、スプリントや2分TTでは改善が見られませんでした。
- プロトコルの特殊性:95% VTでの3時間、80 g/h 炭水化物という条件はすべてのレースに当てはまるわけではありません。
- スポンサー:栄養製品は MNSTRY、血液分析装置は Siemens Healthineers が提供。研究者は両社が研究設計・解析・出版決定に関与していないと明言しています。1名の著者は Precision Fuel & Hydration に所属しています。
- ラボ設定:コントロールされたライド後のタイムトライアルは実戦の混沌とは異なる点に留意が必要です。
結論
長時間サイクリング中に炭酸水素ナトリウムを摂取した初めての試みで、12分TTにおいて 12 W の遅延効果 が得られ、胃腸症状は増加しませんでした。期待できる点はあるものの、サンプルが小さく効果が限定的であることから、エンデュランスアスリートが導入を検討する際は、資格のある専門家と相談し、トレーニングで十分に検証した上で使用することが重要です。万能なパフォーマンス向上策とは捉えず、あくまで一つの補助手段として位置づけましょう。